じぶんに丁度いい1本、数字でさがす。

データで読む材質

ドラムスティックの材質は、何が違うのか

最終更新 2026-08-26 図2点・表3点/読むのに約10分

「メイプルとヒッコリー、どっちがいいですか」は、スティック選びでいちばん多い質問のひとつです。答えの定型もだいたい決まっていて、ヒッコリーは万能、メイプルは軽い、オークは重くて硬い、と言われます。

この記事では、その定説がSTICK FINDERの実データでどこまで確かめられるのかを見ます。先に結論を書きます。材質で変わるのは太さではありません。同じ太さのときの重さです。収録2,110本のうち材質が分かるのは1,984本で、その75%がヒッコリー。いっぽう太さの中央値は、材質を変えても0.2mmしか動きません。

重さのほうは、同じメーカーが同じサイズ名でヒッコリー版とメイプル版の両方を出していて、しかも両方に公式の重量が載っている——という珍しい例を突き合わせると、はっきり数字で出ます。そこから見ていきます。

1. スティックは、何でできているのか

材質別の収録本数。ヒッコリー1,485本、メイプル193本、ホーンビーム87本。ヒッコリーが全体の75%を占める。ヒッコリー1,485 / 33社メイプル193 / 23社ホーンビーム87 / 6社オーク78 / 6社アルミ42 / 3社その他41 / 4社カーボン36 / 1社バーチ12 / 3社ビーチ4 / 1社ローズウッド4 / 2社ジャトバ2 / 1社
材質別の収録本数。帯の区切りひとつが1ブランドで、色は本体の検索画面と同じブランド色です。右の数字は「本数 / 扱っているブランド数」。

公式が材質を書いているのは1,984本(残り126本は材質の記載が見つからないもの)。そのうちヒッコリーが1,485本=75%で、ヒッコリー・メイプル・オークの三大材だけで89%になります。木でないもの(カーボン・アルミなど)は119本です。

ブランドの数で見ると、また別の顔が出ます。ヒッコリーを出しているのは33社。対してオークは6社、ホーンビームは6社、カーボンは1社しかありません。「迷ったらヒッコリー」が定説なのは、そもそも選べる棚の4分の3がヒッコリーだから、という身も蓋もない事情もあります。

2. 太さは、材質では決まらない

材質別の本数と寸法。太さ・長さの列はドラムセット用に限った集計です(マーチングやコンサート用を混ぜると、材質ではなく用途の話になってしまうため)。
材質本数ブランド直径の中央値直径の範囲長さの中央値
ヒッコリー1,4853314.59.5 – 18.5406
メイプル1932314.79.6 – 17.5406
ホーンビーム87614.813.0 – 17.0406.5
オーク78614.513.0 – 17.0406
アルミ42315.113.7 – 15.7413
その他41415.213.0 – 16.0385
カーボン36114.813.5 – 15.8411
バーチ12314.714.2 – 15.2406
ビーチ41
ローズウッド42
ジャトバ21

三大材とホーンビームの直径の中央値は、14.5mm から 14.75mm の間に収まります。差は0.2mm——本サイトが持っている公表値の刻み(小数1桁)で2目盛りぶんです。実質「同じ」と言っていい差です。長さの中央値にいたっては、 4つの材とも406mmから0.5mm以内に収まりました。

つまり各社は、寸法はそのままに材だけを差し替えたモデルを出しています。「メイプルは細い」「オークは太い」といった話は、少なくともカタログの寸法には現れません。だとすると、材質を変えて実際に変わるのは——同じ太さのときの重さです。

3. 同じサイズ名で、ヒッコリーとメイプルの重さを突き合わせる

ここが本題です。ただし、いきなり壁があります。重量を公表しているメーカーがほとんど無いのです。収録2,110本のうち、公式に重量(g)が載っているのは154本(7%)・7社だけでした。

そこで、この条件を満たす組み合わせをデータから機械的に拾いました—— 同じブランド・同じサイズ呼称・同じチップ材で、ヒッコリー版とメイプル版の両方に公表重量がある。条件を満たしたのは11組(Kadence、Millenium)です。

同じブランド・同じサイズ呼称・同じチップ材のヒッコリーとメイプルの公表重量を並べた棒グラフ。4組中4組でヒッコリーのほうが重い。Millenium 2B58.0 g51.5 gMillenium 5A50.0 g45.5 gMillenium 5B58.5 g54.0 gMillenium 7A45.5 g37.5 g
ヒッコリーメイプル
木チップどうしで比べられる4組。棒は公表重量(複数の色ちがいがある場合は中央値で、黒い横線がその幅)。同じブランドの同じサイズ名で、材だけが違います。

いちばん条件のそろった1組を挙げます。直径の公表値が完全に一致する組は、11組のうち1つだけでした。 Millenium H2B(ヒッコリー・⌀16.0mm×407mm・ 58.0g)と、Millenium 2B (メイプル・⌀16.0mm×410mm・51.5g)。同じ太さ、長さの差は3mm。それで6.5g(13%)違います。

ヒッコリー版とメイプル版の両方に公表重量がある11組(すべて)。重量はその区分の中央値。チップ欄の「—」はチップ材の公表が無いもの、赤い行は、全モデルに同じ直径を載せているブランドのぶんです。
ブランド・サイズチップヒッコリーメイプル
Millenium 2B58.051.5+6.5+13%
Millenium 5Aナイロン53.548.5+5.0+10%
Millenium 5A50.045.5+4.5+10%
Millenium 5B58.554.0+4.5+8%
Millenium 7A45.537.5+8.0+21%
Kadence 5A48.049.0-1.0-2%
Kadence 5Aナイロン53.039.0+14.0+36%
Kadence 5B42.040.0+2.0+5%
Kadence 5Bナイロン41.046.0-5.0-11%
Kadence 7A35.031.0+4.0+13%
Kadence 7Aナイロン40.029.0+11.0+38%

11組のうち9組でヒッコリーのほうが重い、という結果です。ただしここも盛らずに書きます。Kadenceの6組は、全モデルに同じ直径(⌀12.7mm)を載せているブランドのものです。第1弾で見たのと同じ「公表値がサイズを見分けられない」状態で、寸法が本当に同じなのかを確かめられません。この6組を除くと、残る5組はすべてヒッコリーのほうが重く、差の中央値は+10%でした。

もうひとつ、数字の読み方の注意を。Millenium の H5A は、同じ型番・同じ寸法(⌀14.0mm×410mm)の色ちがいが11本あり、その公表重量は49.3gから54.3gまで5.0gの幅があります。中央値の10%です。木は1本ずつ密度が違うので、公表されている1個の数字は「その個体(あるいはロット)の実測値」でしかありません。「メイプルは○g軽い」を1本単位で受け取ってはいけない。傾向として1割前後、と読むのが正しい距離感です。

なお本サイトは重量が非公表のモデルに推定値も出していますが、この記事では使っていません。推定は「材質ごとの密度 × 寸法」で計算しているので、それを使って「メイプルは軽い」と言ったら、仮定した密度を結論として述べるだけの循環になります。比べていいのは、メーカーが実際に公表した数字だけです。

4. 材質と、ブランドの国

主な4材の、ブランドの本拠地別の内訳(本数)。「アジア・オセアニア」は日本を除きます。
材質日本ヨーロッパ北米アジア・オセアニア合計
ヒッコリー2544156961201,485
メイプル42469510193
オーク63015078
ホーンビーム2850087

三大材のうちヒッコリーとメイプルは、どの地域のブランドも当たり前のように出しています。はっきり偏るのは残りの2つです。

オーク78本のうち63本(81%)が日本のブランド。オークを出しているのは6社しかなく、うち日本以外は1社だけ。全内訳はPLAYWOOD 28本、Promark 15本、TAMA 13本、Pearl 12本、YAMAHA 9本、PLAYTECH 1本で、ヨーロッパのブランドのオークは0本でした。しかも材質の表記そのものに日本の名前が入っているものが25本あります(Promark の Shira Kashi Oak が15本、TAMA の Japanese Oak が10本)。つまり日本以外のブランドが出しているオークも、日本の白樫(シラカシ)だと明記されているわけです。

ホーンビーム87本のうち85本(98%)がヨーロッパのブランド。内訳はStarWood 47本、Agner 16本、Balbex 14本、Rohema 6本、CANOPUS 2本、Pellwood 2本。こちらは北米ブランドのホーンビームが0本です。

ここから言えるのは分布の事実までです。なぜそうなったのか(産地なのか、伝統なのか)を説明した一次資料は見つけられていないので、書きません。実務的な意味だけ足しておくと、材質で選ぶと買える店も変わります。ホーンビームのスティックを日本の店頭で探すのが難しいのは、この分布のとおりです。

5. チップは木かナイロンか

チップ(先端)の材質を公表しているのは869本で、そのうちナイロンが257本=30%。残り1,234本は公表がありません。ナイロンチップを多く出しているのは Vater 66本、Ahead 40本、Vic Firth 32本、Promark 24本 です。

データで確かめられることが1つあります。チップをナイロンに変えても、棒の寸法は変わりません。型番の末尾に N が付くかどうかだけが違う対を29組拾えました。そのうち26組で直径が一致し、24組は長さも一致します。残りは同じ型番で寸法の公表値が少し違うもので、これは前の節で見た公表値の幅の話です。

つまりナイロンチップは握りと振り心地の土台をそのままに、当たる先端だけを替えたものです。音が明るくなる・粒立ちがはっきりする、シンバルで差が出る——といった説明は各社に共通しますが、数値で比べられるデータは公表されていないので、ここでは断定しません。電子ドラムでの話は第3弾で扱います。

6. 「折れにくいのはどれか」は、この記事では答えられない

材質の質問でいちばん多いもう一方が、これです。答えられません。寿命や耐久性を数値で公表しているメーカーは、収録38社の中に1社もありません。本サイトもそのデータを持っていません。

材の硬さから「オーク>ヒッコリー>メイプルの順に長持ちするはず」と並べることはできますが、それは推測です。折れ方は叩き方・当たる場所・保管の湿度でも変わります。裏の取れないことは書かない、という方針なので、ここは空欄のままにしておきます。

7. じゃあ、どう選ぶか

材質から入るのは、実はあまり効率がよくありません。棚の4分の3がヒッコリーで、しかも太さは材質では決まらないからです。順番は逆のほうがうまくいきます。

  1. まず太さと長さで絞る。ここが振り心地の土台です。
  2. そのうえで、同じ太さのまま軽くしたいならメイプル、重くしたいならオークかホーンビーム。ヒッコリーはその真ん中です。ここが材質の使いどころです。
  3. チップの材質は最後でかまいません。寸法が変わらないので、あとから入れ替えても振り心地は変わりません。

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