データで読む材質
ドラムスティックの材質は、何が違うのか
「メイプルとヒッコリー、どっちがいいですか」は、スティック選びでいちばん多い質問のひとつです。答えの定型もだいたい決まっていて、ヒッコリーは万能、メイプルは軽い、オークは重くて硬い、と言われます。
この記事では、その定説がSTICK FINDERの実データでどこまで確かめられるのかを見ます。先に結論を書きます。材質で変わるのは太さではありません。同じ太さのときの重さです。収録2,110本のうち材質が分かるのは1,984本で、その75%がヒッコリー。いっぽう太さの中央値は、材質を変えても0.2mmしか動きません。
重さのほうは、同じメーカーが同じサイズ名でヒッコリー版とメイプル版の両方を出していて、しかも両方に公式の重量が載っている——という珍しい例を突き合わせると、はっきり数字で出ます。そこから見ていきます。
1. スティックは、何でできているのか
公式が材質を書いているのは1,984本(残り126本は材質の記載が見つからないもの)。そのうちヒッコリーが1,485本=75%で、ヒッコリー・メイプル・オークの三大材だけで89%になります。木でないもの(カーボン・アルミなど)は119本です。
ブランドの数で見ると、また別の顔が出ます。ヒッコリーを出しているのは33社。対してオークは6社、ホーンビームは6社、カーボンは1社しかありません。「迷ったらヒッコリー」が定説なのは、そもそも選べる棚の4分の3がヒッコリーだから、という身も蓋もない事情もあります。
2. 太さは、材質では決まらない
| 材質 | 本数 | ブランド | 直径の中央値 | 直径の範囲 | 長さの中央値 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヒッコリー | 1,485 | 33 | 14.5 | 9.5 – 18.5 | 406 |
| メイプル | 193 | 23 | 14.7 | 9.6 – 17.5 | 406 |
| ホーンビーム | 87 | 6 | 14.8 | 13.0 – 17.0 | 406.5 |
| オーク | 78 | 6 | 14.5 | 13.0 – 17.0 | 406 |
| アルミ | 42 | 3 | 15.1 | 13.7 – 15.7 | 413 |
| その他 | 41 | 4 | 15.2 | 13.0 – 16.0 | 385 |
| カーボン | 36 | 1 | 14.8 | 13.5 – 15.8 | 411 |
| バーチ | 12 | 3 | 14.7 | 14.2 – 15.2 | 406 |
| ビーチ | 4 | 1 | — | — | — |
| ローズウッド | 4 | 2 | — | — | — |
| ジャトバ | 2 | 1 | — | — | — |
三大材とホーンビームの直径の中央値は、14.5mm から 14.75mm の間に収まります。差は0.2mm——本サイトが持っている公表値の刻み(小数1桁)で2目盛りぶんです。実質「同じ」と言っていい差です。長さの中央値にいたっては、 4つの材とも406mmから0.5mm以内に収まりました。
つまり各社は、寸法はそのままに材だけを差し替えたモデルを出しています。「メイプルは細い」「オークは太い」といった話は、少なくともカタログの寸法には現れません。だとすると、材質を変えて実際に変わるのは——同じ太さのときの重さです。
3. 同じサイズ名で、ヒッコリーとメイプルの重さを突き合わせる
ここが本題です。ただし、いきなり壁があります。重量を公表しているメーカーがほとんど無いのです。収録2,110本のうち、公式に重量(g)が載っているのは154本(7%)・7社だけでした。
そこで、この条件を満たす組み合わせをデータから機械的に拾いました—— 同じブランド・同じサイズ呼称・同じチップ材で、ヒッコリー版とメイプル版の両方に公表重量がある。条件を満たしたのは11組(Kadence、Millenium)です。
いちばん条件のそろった1組を挙げます。直径の公表値が完全に一致する組は、11組のうち1つだけでした。 Millenium H2B(ヒッコリー・⌀16.0mm×407mm・ 58.0g)と、Millenium 2B (メイプル・⌀16.0mm×410mm・51.5g)。同じ太さ、長さの差は3mm。それで6.5g(13%)違います。
| ブランド・サイズ | チップ | ヒッコリー | メイプル | 差 | 比 |
|---|---|---|---|---|---|
| Millenium 2B | 木 | 58.0 | 51.5 | +6.5 | +13% |
| Millenium 5A | ナイロン | 53.5 | 48.5 | +5.0 | +10% |
| Millenium 5A | 木 | 50.0 | 45.5 | +4.5 | +10% |
| Millenium 5B | 木 | 58.5 | 54.0 | +4.5 | +8% |
| Millenium 7A | 木 | 45.5 | 37.5 | +8.0 | +21% |
| Kadence 5A | — | 48.0 | 49.0 | -1.0 | -2% |
| Kadence 5A | ナイロン | 53.0 | 39.0 | +14.0 | +36% |
| Kadence 5B | — | 42.0 | 40.0 | +2.0 | +5% |
| Kadence 5B | ナイロン | 41.0 | 46.0 | -5.0 | -11% |
| Kadence 7A | — | 35.0 | 31.0 | +4.0 | +13% |
| Kadence 7A | ナイロン | 40.0 | 29.0 | +11.0 | +38% |
11組のうち9組でヒッコリーのほうが重い、という結果です。ただしここも盛らずに書きます。Kadenceの6組は、全モデルに同じ直径(⌀12.7mm)を載せているブランドのものです。第1弾で見たのと同じ「公表値がサイズを見分けられない」状態で、寸法が本当に同じなのかを確かめられません。この6組を除くと、残る5組はすべてヒッコリーのほうが重く、差の中央値は+10%でした。
もうひとつ、数字の読み方の注意を。Millenium の H5A は、同じ型番・同じ寸法(⌀14.0mm×410mm)の色ちがいが11本あり、その公表重量は49.3gから54.3gまで5.0gの幅があります。中央値の10%です。木は1本ずつ密度が違うので、公表されている1個の数字は「その個体(あるいはロット)の実測値」でしかありません。「メイプルは○g軽い」を1本単位で受け取ってはいけない。傾向として1割前後、と読むのが正しい距離感です。
なお本サイトは重量が非公表のモデルに推定値も出していますが、この記事では使っていません。推定は「材質ごとの密度 × 寸法」で計算しているので、それを使って「メイプルは軽い」と言ったら、仮定した密度を結論として述べるだけの循環になります。比べていいのは、メーカーが実際に公表した数字だけです。
4. 材質と、ブランドの国
| 材質 | 日本 | ヨーロッパ | 北米 | アジア・オセアニア | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヒッコリー | 254 | 415 | 696 | 120 | 1,485 |
| メイプル | 42 | 46 | 95 | 10 | 193 |
| オーク | 63 | 0 | 15 | 0 | 78 |
| ホーンビーム | 2 | 85 | 0 | 0 | 87 |
三大材のうちヒッコリーとメイプルは、どの地域のブランドも当たり前のように出しています。はっきり偏るのは残りの2つです。
オーク78本のうち63本(81%)が日本のブランド。オークを出しているのは6社しかなく、うち日本以外は1社だけ。全内訳はPLAYWOOD 28本、Promark 15本、TAMA 13本、Pearl 12本、YAMAHA 9本、PLAYTECH 1本で、ヨーロッパのブランドのオークは0本でした。しかも材質の表記そのものに日本の名前が入っているものが25本あります(Promark の Shira Kashi Oak が15本、TAMA の Japanese Oak が10本)。つまり日本以外のブランドが出しているオークも、日本の白樫(シラカシ)だと明記されているわけです。
ホーンビーム87本のうち85本(98%)がヨーロッパのブランド。内訳はStarWood 47本、Agner 16本、Balbex 14本、Rohema 6本、CANOPUS 2本、Pellwood 2本。こちらは北米ブランドのホーンビームが0本です。
ここから言えるのは分布の事実までです。なぜそうなったのか(産地なのか、伝統なのか)を説明した一次資料は見つけられていないので、書きません。実務的な意味だけ足しておくと、材質で選ぶと買える店も変わります。ホーンビームのスティックを日本の店頭で探すのが難しいのは、この分布のとおりです。
5. チップは木かナイロンか
チップ(先端)の材質を公表しているのは869本で、そのうちナイロンが257本=30%。残り1,234本は公表がありません。ナイロンチップを多く出しているのは Vater 66本、Ahead 40本、Vic Firth 32本、Promark 24本 です。
データで確かめられることが1つあります。チップをナイロンに変えても、棒の寸法は変わりません。型番の末尾に N が付くかどうかだけが違う対を29組拾えました。そのうち26組で直径が一致し、24組は長さも一致します。残りは同じ型番で寸法の公表値が少し違うもので、これは前の節で見た公表値の幅の話です。
つまりナイロンチップは握りと振り心地の土台をそのままに、当たる先端だけを替えたものです。音が明るくなる・粒立ちがはっきりする、シンバルで差が出る——といった説明は各社に共通しますが、数値で比べられるデータは公表されていないので、ここでは断定しません。電子ドラムでの話は第3弾で扱います。
6. 「折れにくいのはどれか」は、この記事では答えられない
材質の質問でいちばん多いもう一方が、これです。答えられません。寿命や耐久性を数値で公表しているメーカーは、収録38社の中に1社もありません。本サイトもそのデータを持っていません。
材の硬さから「オーク>ヒッコリー>メイプルの順に長持ちするはず」と並べることはできますが、それは推測です。折れ方は叩き方・当たる場所・保管の湿度でも変わります。裏の取れないことは書かない、という方針なので、ここは空欄のままにしておきます。
7. じゃあ、どう選ぶか
材質から入るのは、実はあまり効率がよくありません。棚の4分の3がヒッコリーで、しかも太さは材質では決まらないからです。順番は逆のほうがうまくいきます。
- まず太さと長さで絞る。ここが振り心地の土台です。
- そのうえで、同じ太さのまま軽くしたいならメイプル、重くしたいならオークかホーンビーム。ヒッコリーはその真ん中です。ここが材質の使いどころです。
- チップの材質は最後でかまいません。寸法が変わらないので、あとから入れ替えても振り心地は変わりません。
2,110本を材質と寸法で絞り込むこの1本を基準に似たものを探す
この記事の数字について
- 集計対象: STICK FINDER 収録の2,110本(38ブランド)。材質はメーカーの公式表記(
American Hickory、オークなど)を本サイトの語彙に正規化したもので、判定できないものは集計から外しています。 - 太さ・長さの表はドラムセット用のみの集計です。マーチング用・コンサート用は用途のぶんだけ太く長くなるので、材質の比較には混ぜていません。
- 重量はメーカーの公表値だけを使いました。本サイトが寸法と材質から計算している推定重量は、材質ごとの密度を仮定しているため、材質の比較には使えません(循環するため)。
- ブランドの国はブランドの本拠地です(製造国ではありません)。スティックのデータには国の欄が無いので、ここだけは本サイトの調査台帳から引いています。
- 本文中の数値は、データ更新のたびに自動で再集計されます。最終更新: 2026-08-26