ロースターを数える
プロドラマーは何のスティックを使っているのか
「プロは何を使っているのか」は、たぶんスティックについていちばん多く検索される質問です。そして、たいていの答えは有名ドラマー数人のシグネチャーモデルの紹介で終わります。
ここでは数えます。本サイトはメーカー自身が公開しているアーティスト一覧だけを収録していて、 1,871件の記載を人物単位に名寄せすると1,864人になります。その1,864人が、具体的な型番まで分かる形で延べ2,316件のスティックを挙げている。これを全部数えると、何が出てくるか。
先に、いちばん大事なことを書きます。この数字は偏っています。 2,316件のうち67%がVaterのロースター由来です。アーティスト一覧を熱心に公開している社ほど大きく数えられる、というだけの話で、市場シェアではありません。この記事では、偏りを取り除いた数字も毎回併記します。
1. 使われているモデル 上位20
1位はVater VH5BWで175人。上位20本で2,316件のうち42%を占めます。いっぽう、1人しか使っていないモデルが478本(全645モデルの74%)。上は集中し、下は限りなく散らばる——という、いかにもな形をしています。
2. カタログの分布と、プロの分布はずれている
カタログの中央値は⌀14.5mm、プロの使用の中央値は⌀14.7mm。 Vaterを除いても⌀14.9mmで、どちらの数え方でもプロのほうが太い側にいます。
ずれているのは中心だけではありません。カタログは細い側にも太い側にも長い裾を持っていますが、プロの使用は山が高く、裾が短い。何千本もあるうちの、ごく狭い範囲に実際の使用が集まっている、ということです。はじめての選び方で書いた「中央値ゾーン」が頑丈なのは、この形のおかげです。
3. 偏りの中身を開けて見せる
ここは数字を全部出します。ロースター元の内訳はVater 1,543件、Meinl 309件、Vic Firth 100件、Promark 94件、Innovative Percussion 35件(全25社)。Vaterが67%です。
ではVaterを除けば公平になるかというと、なりません。除いた残り773件を数え直すと、今度はMeinlが40%を占めます。つまりこのデータは「プロの選択」を測っているのではなく、「どのメーカーがアーティスト一覧を公開しているか」を測っている面が強い。 Vic Firth や Zildjian のように、ロースターに型番を載せていない大手もあります。そういう社の使用者は、この2,316件にほとんど入っていません。
それでも数字に意味が残るのは、偏りを変えても結論が動かないときです。中央値は⌀14.7mmと⌀14.9mm——数え方を変えても 0.2mmしか動きません。「プロはカタログより太い側を使う」は、そのくらいには頑丈です。逆に、これから書く国別・ジャンル別はもっと弱い数字なので、母数を毎回添えます。
4. 国によって違うのか
国が分かるのは1,040人(使用データのある人の56%)だけです。そのうち20件以上ある国だけを出します。
| 国 | 件数 | 直径の中央値 | 長さの中央値 | その国で最多 | 掲載者の例 |
|---|---|---|---|---|---|
| United States | 458 | 14.7 mm | 410 mm | Vater VH5AW | Abe Cunningham |
| Germany | 121 | 14.7 mm | 406 mm | Vater VH5BW | Aaron Thier |
| Japan | 112 | 15.0 mm | 405 mm | Vater VH5AW | Atsuki Takizawa |
| United Kingdom | 104 | 14.5 mm | 406 mm | Vater VH5AW | Adam Breeze |
| Switzerland | 66 | 14.6 mm | 406 mm | Vater VHFW | Alain Tissot |
| Australia | 64 | 14.7 mm | 406 mm | Vater VH5BW | Alexander Flood |
| Canada | 32 | 15.2 mm | 406 mm | Vater VH5AW | Aaron Edgar |
| Ireland | 30 | 14.5 mm | 406 mm | Vater VH5AW | Adam Faulkner |
| Brazil | 25 | 14.7 mm | 406 mm | Meinl SB101 | Celso de Almeida |
| Italy | 24 | 14.7 mm | 406 mm | Vater VH5AW | Christian Meyer |
| Netherlands | 21 | 14.7 mm | 406 mm | Vater VH5BW | Antonie Broek |
| Spain | 20 | 14.4 mm | 408 mm | Meinl SB101 | Alvaro Odeh |
直径の中央値は⌀14.4〜15.2mmの間に全部収まりました。差は0.8mm。国ごとの傾向がまったく無いとは言いませんが、「国によってスティックが違う」と言えるほどの差は出ていません。そもそも母数が1,077件で、ロースターの偏りもそのまま持ち込まれています。ここは「差が見つからなかった」と書くのが正直なところです。
5. ジャンルの差は、ジャズにだけ出る
ジャンルのタグが付いているのは473人。これも出どころが偏っていて、91%がVaterの記載です。
そして扱いに困る事情がもう一つあります。ロックとポップがほぼ同じ集合なのです。ロックが327人、ポップが328人ですが、ポップの100%(327人)はロックにも付いています。両方まとめて1つのタグとして扱うほかありません。ジャズより母数の小さいジャンル(ラテン23人、クラシック・吹奏楽15人、シアター11人、メタル4人)は、数えても意味が出ないので扱いません。
比べられるのはロック/ポップ(364件)とジャズ(45件)の2つだけです。結果は、ふつうに考えたとおりでした。
- ロック/ポップ: 中央値 ⌀14.7mm、半数が14.5〜15.4mm。最多はVater VH5BW(51件)。
- ジャズ: 中央値 ⌀14.2mm、半数が13.7〜14.7mm。最多はVater VH7AW(6件)。
差は0.5mm。じつは、ジャズの上側四分位(14.7mm)がロック/ポップの中央値(14.7mm)とほぼ同じ位置にあります。つまり「ジャズドラマーの太いほうの4分の1」が「ロックドラマーのふつう」と同じ。分布は大きく重なっていて、ジャンルで1本に決まるわけではありません。ただ、山の位置が細い側にずれているのは確かです。
ジャズの母数は45件しかありません。0.5mmという差を「ジャズは細い」と一般化するには弱い数字です。そう読める、というところまでにしておきます。
6. シグネチャーを持つ人と、持たない人
使用データのある1,864人のうち、自分の名前が付いたモデルを持っているのは 440人(24%)。残りの1,424人は既製品を使っています。
両者で直径の中央値を比べると、シグネチャー持ちが⌀14.9mm、持たない人が⌀14.7mm。ほとんど変わりません。名前入りのモデルは、特別に太かったり細かったりするものではなく、既製品と同じ範囲の中の1本だということです。
7. 何本を使い分けているのか
1人が使うモデルの数は1本が1,521人、2本が269人、3本が50人、4本が17人。 343人(18%)が2本以上を使い分けていて、最多はRalph Hardimonの7本でした。
面白いのはその中身です。2本以上を使う人について、いちばん細い1本といちばん太い1本の直径差を取ると中央値0.6mm。しかも20%(68人)は、太さがまったく同じ複数モデルを挙げています。太さは動かさずに、チップ形状や材質、あるいは色だけを変えている—— プロの使い分けは「太さ違い」ではなく「同じ太さの中での使い分け」が主だ、ということです。
これは選ぶ側にとって、けっこう実用的な知らせだと思います。自分の太さが決まったら、そのあとの試行は太さを固定したままやればいい。本サイトの「この1本を基準に探す」は、まさにそのための機能です。
この記事の数字について
- 出典: 各メーカー公式サイトのアーティスト一覧・シグネチャー製品ページ。メーカーが「使用」と明記しているものだけを収録しています。雑誌記事や動画からの推測は入れていません。
- 数え方: artists.json は「1人×1ブランド=1レコード」なので、人物単位に名寄せしてから数えています(1,871レコード → 1,864人)。同じ人が2社のロースターに載っていても1人です。同じ人が同じモデルを複数社の記載で挙げていても1件です。
- 偏り: 使用2,316件のうち67%がVaterのロースター由来。除いた773件ではMeinlが40%になります。ロースターに型番を載せていない大手の使用者は、ほとんど数えられていません。
- ジャンル: タグ付きが473人と少なく、うち91%がVaterの記載です。ロック(327人)とポップ(328人)は327人が重複するため 1つのグループとして扱い、母数の小さいジャンル(メタル・ラテン等)は扱いません。
- 寸法はメーカー公表値。直径が公表されていないモデルは分布の集計から外しています。
- 本文中の数値は、データ更新のたびに自動で再集計されます。最終更新: 2026-08-27
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- データで読む型番「5A」は規格ではない「5A」を名乗るドラムスティック353本(32ブランド)の直径を実際に集計すると、12.7mmから15.1mmまで2.4mmの幅がありました。5Aは規格ではありません。5B・7Aとの重なりも実データで示します。
- データで読む材質材質のちがいを実データで見る収録2,110本のうち材質の分かる1,984本の内訳と、同じブランド・同じサイズ名で公表されているヒッコリーとメイプルの重量比較。材質で変わるのは太さではなく、同じ太さのときの重さです。オークと日本、ホーンビームと欧州の偏りも数字で。
- はじめての1本はじめての1本を数字で決める最初の1本は⌀14.0〜15.1mm×400〜413mmの真ん中から。ドラムセット用1,800本の分布と、プロの使用2,311件のデータで「ふつう」がどこかを数字で示します。特定のモデルは薦めません。
- 似ている1本をさがす定番から他ブランドへ乗り換える「いま使っている1本と同じようなものを、別のブランドで」。定番30本について、他ブランドで寸法・チップ・材質がいちばん近いモデルを1,800本から機械的に出しました。直径と長さの差も全部載せているので、近い理由をその場で検算できます。
- データの両端を見る世界の果てのスティックと、細長比収録2,110本でいちばん細い・太い・長い・短い・重い・軽い1本を、同じ縮尺の1枚に並べました。さらに「細長比(全長÷直径)」という指標を作って上位10本を出しています。中央値27.8に対して1位は49.9。極端を見ると、真ん中の意味が分かります。